狼は呆れたようにあくびをして二人を乗せ藺藤一族の屋敷にまっすぐ向かった。
「狼にも呆れられたね」
「あったり前でしょう。もう」
 腰に回されている手が上に上ってきそうなのを肘鉄を食らわせてその手を黙らせて溜め
息を吐いた。
「ほんと、あんたってむっつり助平ね」
 軽そうな外見だが凛以外の人間や妖には口が硬いと。そういわれているが、凛に大して
は手や口が軽くなるらしい。公私のパートナーだから仕方ないといってもこの非常事態に
は勘弁して欲しいと凛は溜め息をついた。
〈気持ち、察するよ、凛〉
 狼からの言葉に深く溜め息をついて後ろで呻いている昌也にもう一度溜め息を吐いて狼
に飛ばすように命令した。きちんとつかまっていなかった昌也が半ば振り落とされたが襟
首をきっちり凛につかまれて窒息しかけて屋敷についたのは言うまでもない。
「殺す気か」
「ええ。あんたが死んだら一緒には死んでやるときもやらないときもあるから」
「どういう意味だよ、それ」
「あんたの自業自得であたしに殺された場合は死んでやらないって言ってるの。つまり、
今みたいな状況で死んじまったらあたしは一緒になんか逝ってやらないよ」
 おおよそふさわしくない話題をぎゃーぎゃーと喚きながら歩き屋敷に張った。昌也が中
を確認して手早く見えなかった分を凛に確認をとった。
「人は?」
「大爺ぐらいじゃないの、しなびた匂いしかしないもの」
 塀の外から眺め蔵の位置まで塀の外で移動すると、無残に崩れた塀と蔵があった。残骸
の中から懐剣か手鏡を探し出すのは面倒だろう。凛は少しむくれて昌也を見ると昌也はふ
ふんと笑った。
「なによ」
「術使えばどうにかなるんじゃないか? どうせならこの瓦礫片しちまおうぜ」
 かなりの名案だ。風で瓦礫を吹っ飛ばして金気のあるものだけをこちらに寄せてそれを
持ち帰ればことが足りる。凛は目配せして頷くと思い切り風を起こした。昌也がさりげな
く金気の物を集めた。
 そして、数分後、伝来の太刀や貴重なものも含めいらないものも含めかなりの物が集ま
り目的のものもその中に入っているのを確認してとっとと屋敷に戻った。
「嵐とたぬちゃん、帰ってるな」
「なにしてる?」
「あんたじゃないんだから。……楽しそうにしゃべってるね」
 屋敷の外で降りているものといらないものを分けて屋敷に入れた。いらないものの行方
は子飼いの狼のおもちゃだ。
「帰ったか」
「ああ。何やってたんだ?」
「都軌に渡すものとってきたんだ」
 それだけ言うととりあえず懐剣と手鏡と太刀をもって凛はまた出て行った。
「大変だな」
「まあ、しょうがないだろ。とりあえず、結界石は配り終えたな」
「ああ。でも、いつやむんだ?」
「さあ。今回の事が成るか、終わるかするまでじゃないのか。まあ、これ以上振り続けた
らこちらの世界も崩壊しちまうわな」
 ひょいと肩をすくめたがかなり恐ろしい事になるのは必須だ。莉那は動物的な勘で悟っ
たのかカタカタと震えだした。
「崩壊しちゃったらどうなるだ?」
 その弱弱しい声に嵐が無意識なのか意識的なのか肩を抱いた。一丁前になりやがってと
小突きたかったがそれより莉那の疑問が先だ。
「そうだな、この世界がなくなるか、現世と融合するかだな。下手したら、亡者が現世で
よみがえるかもしれない」
「じゃあ、黄泉の軍勢も?」
 かもしれないと頷いて溜め息を吐いた。もし、そんなことがおきれば、どうなるか、わ
からない。得体の知らない恐怖がこの三人、否、この異界に住まう妖たちを襲っていた。


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